『チ。-地球の運動について-』を読んだ皆さん、その深遠な物語に心を揺さぶられたのではないでしょうか? 4章からなるこの壮大な物語は、単なる地動説を巡る歴史漫画ではありません。地動説を信じる者、研究する者、そしてそれを迫害する者、それぞれの信念のために生き、時に命を落とす人々の姿が描かれています。
一読しただけでは分かりづらい、あのラストシーンの真意や、キャラクターたちの行動の裏に隠された哲学。今回は、この衝撃的な作品のストーリーを僕なりに読み解き、隠された真のテーマに迫ります。特に「あのシーン、なんで〇〇が最後に出てくるの?」といった疑問をお持ちの方にも、深く共感いただける内容になっているはずです。
『チ。』の真のテーマは「人間の生き様の哲学」
『チ。-地球の運動について-』のテーマは地動説ですが、この作品の真のテーマは「人間の生き様の哲学」であると僕は考えています。なぜなら、『チ。』は歴史を真実通りに描いた漫画ではないからです。
例えば、作中で描かれた地動説への迫害は、史実とは異なる描写だとされています。では、なぜ作者の魚豊先生は、史実と異なる描写をあえて選んだのでしょうか? それは、「何のために生きるか」「何を信じるか」「何を美しいと思うか」という、普遍的な「生き様」の哲学を描くためではないでしょうか。天文学の知識がなくとも、誰もが共感し、深く考えることができるのは、この普遍的なテーマが根底にあるからこそなのです。
知性と暴力の対立、そして交錯
『チ。』の最大の見どころは、地動説を信じる者とそれを迫害する者の、異なる哲学が戦いを繰り広げるシーンにあります。
作品のタイトル「チ。」には、「知(知性)」と「血(暴力)」の二つの意味が込められています。物語の序盤、知性を象徴する地動説の研究者ラファウやバディ、そして暴力を象徴する異端審問官ノバクや市教徒たちが対立します。読者は、知性ある者たちが宗教の暴力によって虐げられる姿を目の当たりにし、「知は尊く、暴力は否定されるべきもの」「科学は善、宗教は悪」というシンプルな善悪二元論で物語を読み進めてしまいがちです。
事実、主人公たちは章ごとに変わりますが、ラファウもバディもオクジも、地動説を信じたために命を落とします。彼らを死なせたのは異端審問官ノバク、そして彼にその仕事をさせた宗教でした。ここまでは、善悪がはっきりと分かれているように見えます。
第3章:揺らぐ善悪の境界線
しかし、この明確な善悪の構造は、第3章から大きく変化していきます。
第3章では、地動説を世に広めようとする異端解放戦線のシミットたちが、今度は積極的に市教徒たちを殺め始めます。今まで虐げられてきた地動説側が、自ら暴力を行使し始めるのです。「地動説を守るために血(暴力)を使う」――これは、宗教を守るために地動説を迫害する側が行ったことと、本質的には変わらない行為です。
仲間を逃し、地動説を後世に伝えるために爆弾で自爆するヨレンタの姿は、ラファウと同じく思想を守るための自殺であり、悲劇的であると同時に、テロを連想させる暴力でもあります。ノバクは、文明や理性の名のもとでの大虐殺は、神の名のもとで行われたそれと比べ物にならない規模になると警鐘を鳴らします。そして、神を失ったら人は迷い続ける、とも。
原子爆弾、核兵器…。それらの近代的な武器は、すべて人間の「知」が生み出したものです。知性と暴力は決して相反するものではなく、むしろ密接に結びついている。この皮肉な真実が突きつけられます。ドラカは「苦しみを味わった知性は迷いの中から新たな倫理を生む」と反論しますが、ノバクはそれを「呆れるほど楽天的だ」と一蹴します。事実、今なお知性が生んだ兵器による暴力は終わることなく、ますます激化しています。
「神なき世界で起きたのは、ノバクの言う通り今なお続く大量死の時代」――ここでは、知性が決して手放しに賞賛されるものではないことが示されるのです。
第4章:読者を混乱させる究極の逆転
第3章で起こった構造の変化は、ついに最終章である第4章で逆転すら引き起こします。そして、この第4章こそが、多くの読者を最も混乱させるのではないでしょうか。
最終章では、なんと第1章で死んだはずのラファウが、成長した姿で登場します。「あれ?死んだんじゃなかったの?」と誰もが混乱するはずです。
この謎を解く鍵は、第4章の一コマ目にある「ポーランド」という表記と、主人公の名前「アルベルト・ブルフ」に注目することです。第1章では「PO国」と伏せられていた国名が、最終章では現実の国名として明記されています。また、アルベルト・ブルフは実在の人物であり、『チ。』の副題の元になった地動説の書物『天球の回転について』の著者、コペルニクスの先生です。
つまり、最終章は私たちが生きている現在の世界に繋がる物語だと考えられます。第3章までは私たちの生きている世界とは別の「世界線」の物語だったのではないでしょうか。これは、マーベル映画などでもおなじみの「多元宇宙論(マルチバース)」が反映されていると考察できます。地球や宇宙について考える天文学がテーマの物語だからこそ、ラストに多元宇宙論をストーリーに組み込んだのは必然だったのかもしれません。
繰り返される悲劇、逆転する構図
物語に戻ると、成長したラファウは第4章の主人公ブルフスキの家庭教師をしています。才能を感じたラファウはブルフスキを自身の知的サロンに招待しますが、ブルフスキが家に帰ると、衝撃的な光景を目にします。
そこには血を流して死んでいる父と、ラファウがいました。ラファウは「この世の美しさのためなら犠牲はやむを得ない」と言い放ちます。地動説の研究をしていたブルフスキの父は、ラファウにその資料を渡すことを拒み、自ら燃やそうとした。それを止めようとしたラファウが父を殺してしまったというのです。
この構図、どこかで見たことがありませんか? そう、これは第1章でも全く同じ構図で「父の死を見る子供」というシーンがありました。第1章の子供と父親と、第4章のブルフスキとその父は、服装も髪型も酷似しています。これは、彼らが別次元での同一人物であることを示唆しているのではないでしょうか。
そして全く同じシーンであるにも関わらず、このシーンは第1章と完全に反対の構造を持ちます。第1章では地動説を研究していた父は、異端審問官ノバクによる宗教の暴力で殺されます。しかし最終章で父は、宗教ではなく「知(地動説)」のために殺されるのです。
第3章まで感動的に描かれてきた「地動説を継承する」という理由で、第1章の主人公であるラファウに、ブルフスキは父を殺されてしまう。そして年老いたラファウは、皮肉にも教会の神父になっている――。全てはこのラストのための伏線だったと考えると、恐ろしいほど計算された漫画だと言えるでしょう。
もしかしたら、この第4章がない方が、地動説を信じる若者たちが宗教に虐げられながらも、時代を超えて知を継承した話として、より感動的だったかもしれません。しかし、魚豊先生はそのような単純な読まれ方を良しとしなかったのです。
神なき世界と「生き様」の哲学
作中でドラカが言うように「きっと社会から神が消えても、人の魂から神は消せない」。この世界に生きている限り、宗教や神を完全に否定することはできません。死後の世界や神様を信じることで、救われる人はたくさんいます。
『チ。』では、何度も登場人物が神を感じる瞬間を描いています。バディは死を覚悟した奥に「アーメン」と祈り、第3章の主人公ドラカは死の淵で太陽の眩しい光に恍惚感と神を感じます。異端審問官ノバクもまた、娘のヨレンタが天国へ行けるように祈る瞬間、炎に燃える十字架に神を見ます。
特定の宗教でなくとも、自然の美しさや奇跡としか言いようがない出来事に、私たちは神を感じることがあります。『チ。』は、神を信じることを否定せず、かといって知を絶対的に賞賛することもしません。
なぜ『チ。』では、このような「生き様」の哲学が描かれたのでしょうか? 魚豊先生は、死について考えると逆説的に人生の意味についても考えるし、それは無駄ではない、と語っています。「死ぬことは怖いけど、ではなぜ私は生まれたのだろう?」「いつ来るかわからない死を前に、いかにして自分に嘘をつかずに自分らしく生きられるのか?」
『チ。』では、地動説のために命をかけた人たち、信仰のために異端を排除した人たち、それぞれの生き様、哲学があり、魚豊先生は彼らを誰も否定しません。両論を併記し、感想は読んだ人それぞれの心に委ねるような作りになっています。本当に20代前半の若者が作った物語なのかと、ただただ衝撃を受けるしかありません。魚豊先生、一体あなたは何者ですか?
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まとめ
今回は、『チ。-地球の運動について-』のストーリーを深掘りし、その背後にある「生き様の哲学」について解説しました。知性と暴力、そして多元宇宙論といった壮大なテーマが複雑に絡み合い、読者の固定観念を揺さぶるこの作品は、まさに現代の私たちに問いかけるようなメッセージに満ちています。
『チ。』は、一度読んだだけでは消化しきれないほどの深い意味が込められた作品です。この考察が、皆さんの『チ。』体験をより豊かなものにする手助けになれば幸いです。もしこの記事が面白かったと感じていただけたら、ぜひコメントで感想を聞かせてくださいね!
